おはようございます。こんにちは。こんばんは。すなおたまき(@office_sunao)です。
ものすごく遅ればせながら、#3000文字チャレンジに参加します。今回のお題は「3000文字勝負」。特に〆切はないようなので、今更ですが書きました。
社会人になってから極真空手を始めてどんどんのめり込み、気付いたら仕事を辞め職員となり、気付いたら試合に出ていて、気付いたら全日本や世界大会などに出るようになり、いつしか私の夢は「世界チャンピオンになること」となっていました。
今ふと振り返ると当時の私には足りないものがたくさんあって、結局世界チャンピオンになる夢を叶えることなく引退した訳ですが。
それでも高みを目指す上でたくさんお世話になった方、共に同じ目標に向かって切磋琢磨した仲間や諸先輩方、そして私の背中を見て「自分もそうなりたい」とがんばってくれた教え子達と、たくさんのひとたちに支えられて充実した選手生活を送ることができたと思っています。
私は自分の試合で感動して泣いたことはありません。
勝っても負けても満足のできる試合内容には程遠く、いつも何かしら自分自身に不満を持っていたので泣けませんでした。
悔し涙はあります。
自分の不甲斐なさに涙して勝つつもりで挑んだ試合に負けて、どうしていいのか分からなくなることはありました。
さて、お得意の自分語りはこれくらいにして、今日は私が感動して号泣したある試合について話をしようと思います。
共に切磋琢磨して汗を流した、またよき友人でもある女子の先輩の試合。
素晴らしい試合内容でした。
私よりふたつ歳下の彼女ですが、そのキャリアは大先輩。今はもう空手から離れてしまったけれど、「あの試合」を思い出すと熱いものがこみ上げてきます。
彼女へ、尊敬の念を込めて。
雄々しき女神、憧れの先輩
交流試合、関東大会、全日本選手権とステップアップしていく中で週に何日か共に稽古をする選手仲間であった先輩。
彼女は私が空手をはじめた時はもう既に黒帯を締めていて、全日本選手権やアジア大会で活躍し、地方大会荒らしかと思うほど片っ端から試合に出ては優勝していた。
アグレッシブかつ豪快で真っ向勝負。サイズの大きな相手にも怯むことなく果敢に向かっていく様は、百獣の王さながらだった。
私が初めて観戦した全日本選手権では、他を寄せつけることなく圧勝。
表彰台に立つ彼女は、真に女王の風格を漂わせながら凛とした表情で佇んでいた。
あるときから、そんな彼女とひょんな縁で一緒に稽古させてもらえることになった。
私は舞い上がった。
憧れの先輩であった彼女と同じ場所で同じ稽古をすると思うだけで、とてもワクワクして緊張して身震いした。
実際に一緒に稽古してみると、やはり私なんかより一枚も二枚も上手である。
なんというか一見さほど差がないように感じることもあるが、肝心のところで私とは圧倒的な差があった。
心·技·体どれをとっても私は、彼女には叶わない。
そんな彼女と稽古することは、いつもワクワクして楽しい瞬間だった。
目の前に憧れの先輩がいる。その集中して稽古に臨む様は緊張感があり、大いに刺激的だった。
が、一旦稽古がひと段落し休憩ともなると、彼女は意外な一面を見せる。
試合場で感じる雄々しい姿とは裏腹に、とてもおっとりした話口調。稽古が終わればずっとにこにこと優しい笑顔。そしてとても人懐っこかった。
試合の時に見せる鬼の形相から想像していた「怖い先輩(憧れてはいるけれど)」とは程遠く愛らしい。
そのギャップにまんまとやられた私は、公私共に彼女の大ファンとなった。
女王の意外な一面
稽古以外でも色んな話をした。
ここで詳しく書くことは彼女のプライベートを侵害することになるので控えるが、彼女はとても苦労人だった。
高みを目指すとなれば、応援してくれるひともいるけれど、蹴落とそうとしてくる輩もいる。孤独も増える。
そうした数々の立ちはだかる壁に、彼女はひとつひとつ対峙しながら耐えて我慢して諦めることなく強くなろうとしていた。
決して屈することなく、ひたむきに努力し続ける。
そんな彼女を応援するひとたちの期待に応えるために。
組手試合にはその人のすべてが出る
私は、空手の試合はその人の全てが如実に表れると思っている。
極限まで追い込まれた時にどういう行動を取るのか、戦い方、戦法のとり方など全てにその人の性格が出る。
彼女のファイティングスタイルを言葉で表すならば「忍耐」と「情熱」だ。
耐え忍び、勝機をうかがいながら耐える。「いける」と感じた瞬間に一気に畳みかける。逆境かと思われる試合展開も、自らのファイトで流れを自分に引き戻す。
アグレッシブな戦いの中にもどこか冷静さを持ち合わせる。そして瞬時にカッとなる熱さが見る者を魅力する。
彼女の人間性、それまで歩んできた人生をそのまま表すかのような情熱的な組手。
そして劇的な勝利。
もう、最高にカッコイイのだ。
私が号泣した彼女のベストバウト
私が号泣した試合。
それは彼女が女子の世界大会に出場し、あとひとつ勝てば初めて世界チャンピオンになれるというとても大事な試合だった。
当時私は残念ながらキャリアが足りず、その大会自体には出場できなかったのだけれど、師範の計らいで非公開だった予選会から彼女の試合を間近で見ることができた。
試合前の彼女は、とても話しかけられるような雰囲気ではない。完全に戦闘モード。私はそっとコート脇から彼女の試合を見守ることにした。
当時、女子の世界大会で強豪といえば、ロシアだった。ロシア人は毎年とても強い選手が出場する。
事前の情報がないいわゆるノンキャリアの選手なのに、めちゃくちゃ強いということもある。
彼女のトーナメントもまた、ロシアをはじめヨーロッパ、アメリカなどサイズの大きな海外勢が続く。
しかし、小さな身体で果敢に攻め込んで着実に勝ちを重ねていった。
あと一試合。
この試合に勝てば、彼女は初めて世界チャンピオンになる。
私はとても緊張した。
他人の試合なのに緊張し過ぎて吐きそうだった。
緊張感のある試合展開
彼女のこの試合を見ることは、とてつもなく緊張した。
これまでの彼女の努力や頑張りや、諸々そばで見てきたからというのもあったけれど。
ひとりのファンとして彼女にはどうしても世界チャンピオンになって欲しかった。
彼女がならないで、ほかの誰が世界チャンピオンに相応しいのかなんて想像もできない。そう思っていた。
相手は何連覇もしているロシアの強豪選手。手足がながく身長も高い。
本戦はお互いに見合いながら、時折相手から繰り出される突き蹴りを躱す展開になっていった。
序盤・中盤と劣勢ながらも凌いで技を返す展開が続く。
必死に食らいつき食らいつき、
判定は引き分け。
延長戦ともなると、彼女はもう全身全霊をかけて向かっていった。文字通り、彼女のすべてを出し尽くした戦いだった。
結果。
残念ながら、判定負け。
最後の最後に押し込まれてしまった。
彼女は、一瞬無念の表情を浮かべたもののまたいつも通り凛とした表情で試合場に立っていた。
残酷なまでに無情な現実
号泣した。人目もはばからず。私が。苦笑
無情だと思った。
勝負とは最後まで分からないと思いつつも、時に残酷なまでに現実を突きつけてくる。
どれだけ頑張っても、耐えても、努力しても、結果に結びつかない時もある。
分かっちゃいるけれど、もう無情過ぎて泣けた。
そんな私とは反対に、いつも通り表情ひとつ変えず判定を聞き入れた彼女。一礼をして相手選手
とハグをかわし、その試合は終わった。
他人の試合で、ここまで泣いたことはこれまでにない。
彼女のすべてがその試合に詰め込まれていたように見えたし、彼女は本当に命を削って、人生をかけて試合に挑んでいたはずだから。
見る者の心を熱くする試合
結果はついてこなかったけれど、ひとの心を揺さぶり感動させるような試合。
あの試合をきっかけに、私自身もそうありたいと思うようになった。
勝負とは時に残酷なまでに現実を突きつけてくる、無情なもの。
でもその結果ではなく、そこへたどり着くまでの過程であったり、そこへ向かってひたむきに突き進む姿に感動し、誰かの胸をうつ試合もある。
感動するってこういうことなのだろうか。
試合場に立つ凛とした彼女。今も変わらず私の憧れの先輩だ。
今はもう彼女の試合を見ることはできないが、あの試合は今でもわたしの中で生きている。
勝負とは。
真の勝利者とは、誰かの心を熱くできる感動をよぶ者なのかもしれない。
最後までお読みくださりありがとうございました🍀